鮮魚店から広がる人間模様。首都圏からの移住で異業種に挑戦
鮮魚店「魚福」店長 福田 啓将さん
- 移住エリア
- 東京都、他→愛知県稲沢市
- 移住年
- 2016年
愛知県の北西部、濃尾平野のほぼ中央あたりに位置する愛知県稲沢市。野菜や花が並ぶJA愛知西の産直広場の一角に、知多半島や三河湾で獲れた海の幸を届ける鮮魚店があります。「いらっしゃい。お母ちゃん、今日は何にする?」。威勢よく声をかけるのは、東京生まれ、横浜育ちの福田啓将さん。かつては外資系企業でITコンサルタントとして全国を飛び回っていましたが、2016年に移住して店を始めました。魚の小売業の経験はなく、一からのスタートでしたが、今ではお店は遠方からもお客さんが訪れる人気店になっています。「表面的な付き合いの都会に比べて、地方は一度仲良くなれば優しい人が多い。新鮮な魚を少しでも安く提供し、地域の台所になりたいね」と話します。
首都圏から縁あって愛知県の稲沢へ
父親が彫金作家で、家業を継ごうと地元の美大を卒業した福田さんでしたが、職人の世界にはない営業職への魅力を感じて一般企業に就職します。3年後には外資系企業に転職。法人を対象にしたITコンサルタントとして、月の半分は全国を駆け回る生活を送っていました。そんな福田さんの趣味は釣り。海洋保全にも興味があり、会社員時代は副業で高級釣り具のメーカーを立ち上げて、利益を海洋環境の保全や子どもたちへの体験学習に充てていたそうです。
30歳を過ぎてから愛知県美浜町の海産物関連会社に引き抜かれて転職。新店舗立ち上げや通販サイトの構築に携わります。5年後に退職して横浜の実家に戻ったところ、すぐにJA愛知西の関係者から連絡があり、「産直広場で魚店を出さないか」と誘われます。
前職は海産物を扱う会社だったとはいえ、仕事で触っていたのはパソコンだけ。魚の小売業は全く未経験という状態でしたが、「どんな仕事でも全力で取り組めば必ず8割方できるようになる」という信念の元、信頼できる人からの紹介だったこともあって、出店を決意します。JAという地域に根差した施設内の出店だったことも安心感につながったそうです。

JA愛知西の産直広場一色下方店にある店。お昼時には飲食コーナーもにぎわう
稲沢市は自然豊かで暮らしやすく、若い世代の力も感じるまち
「隣の一宮市には行ったことがあったけれど、稲沢市には来たことはなかった」という福田さん。横浜から初めて来た時は、「予想以上に何もないな」と思ったそうです。住まいは産直広場にも駅にも近く、新しい物件に絞って4、5件を内覧して決めました。このとき家賃の安さに驚いたそうです。
住み始めて10年ほど。「都会の生活も嫌いじゃないけれど、ここは自然が身近に感じられるから、もっといい」と今の暮らしを気に入っています。自宅の近くには「祖父江ぎんなんパーク」があり、晩秋には約1万本のイチョウが黄色く色づきます。冬には岐阜・滋賀県境にある伊吹山から「伊吹おろし」と呼ばれる冷風が吹き付け、魚を扱う手もかじかみますが、五感で感じる自然を楽しんでいます。

福田さんの自宅近くにある「祖父江ぎんなんパーク」。晩秋、鮮やかにイチョウの木が黄色く色づく
1人暮らしで店も忙しいため、日々の食事は外食も多くなりがちです。
「夜までやっているお店も結構あるし、名古屋の都心にも車で1時間以内で行ける。公共交通機関が少ないのはネックだけれど、自分は生活で困ったことは何もないですね」
と教えてくれました。
高齢化も進む地域ですが、若い世代の力も感じています。稲沢市に新しいご当地グルメ名物を作ろうと市役所の駐車場で「カレーフェスティバル」が開かれたり、挑戦を続ける若手農家の人がいたり。
「目的があって、頑張っている人はどこにでもいる。どんな場所でも、そういう人に結果は必ずついてくる」
と福田さんは力を込めます。
小さな店が評判を呼んで繁盛店に。目指すのは人情味あふれる魚屋さん
異業種に飛び込んだ福田さんは毎日、名古屋や知多半島の市場に通い詰めて関係を築き、質の良い魚を安く売ることを実直に続けてお客さんを増やしていきました。最初はテント営業だったお店も口コミで知られるようになり、徐々に面積を拡大。今では市場内の固定店舗となり、海鮮丼が食べられるコーナーも併設され、県外からも客が訪れる人気店に成長しています。
お店をスタートした頃と変わらず、今でも深夜に家を出発、名古屋と知多半島の市場を回ります。午前9時から午後4時まではお店で立ちっぱなし、帰ってからも事務作業に追われ、寝るのは午後10時過ぎという大忙しの毎日を送ります。「もともと寝なくても大丈夫な体質」と笑いますが、仕事をやりぬく原動力は「物価高でもなるべく良いものを安く提供し、地域の台所になりたい」という思いです。「おいしかったよ」「こんないいお魚がこの値段なの?!」というお客さんの正直な感想を心から嬉しく感じています。

魚を買いに来た常連さんとの会話も弾む
かつての仕事を振り返り、
「法人相手だと建前も多くなるけれど、エンドユーザーのお客さんの反応は正直。でも、だからこそ楽しい。地方でのビジネスはライバルが少ない分、大負けすることもないし、一生懸命やっていたら人と繋がってやっていける」
と話します。「昔は情報技術の分野でシステム構築をしていたけれど、今は魚を通して人間関係を構築してるんだね」と笑いながら教えてくれました。
1人で始めたお店でしたが、今では移住後に知り合った公私のパートナー、「めぐすけ」さんと一緒にお店に立ちます。お客さんが縁で、隣の一宮市にある社会福祉法人の理事も務めることになり、施設に食材も提供しています。
「地方は保守的な人が多そうと心配する人も多いけれど、一度仲良くなれば優しい人も多いし、応援もしてくれる。都会にない人間味を感じられる人なら移住後もきっと大丈夫」
と教えてくれました。

店を手伝う「めぐすけ」さんは、移住後に知り合った公私のパートナー

鮮魚店「魚福」店長 福田 啓将さん / ふくだ ひろまさ
1982年東京都生まれ、神奈川県横浜市で育つ。一般企業で営業開発やITコンサルタントとして働いた後、愛知県美浜町の漁業関連会社に転職。退職後に一旦は実家の横浜市に戻ったが、JA愛知西産直市場から声がかかり、2016年、「魚福」を開店。母親は愛知県豊明市出身。元中日ドラゴンズの選手、福田永将さんは実の弟。
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魚福Webサイト