奥多摩の子供たちと“楽しい近所”をつくりたい!
「ニュー駄菓子屋サンマ」店長 村上 天悠さん
- 移住エリア
- 都内→東京都奥多摩町
- 移住年
- 2023年
地方移住というと、いくつかの候補地から条件に合った移住先を絞り込んでいくというプロセスを踏むことが多いものですが、「最初からねらいうち。他は全く考えていなかった」と言うのが、都心部から東京の最西端・奥多摩町へ移住した村上天悠さん。自然にあふれた新天地で理想の暮らしを手に入れた彼が、見出した新しい目標とは? キーワードはみんな大好き“駄菓子屋”です!
移住施策にくわしいコンサルが選んだ“最高の移住先”
東京・中野区に暮らし、朝8時に家を出て、夜8時まで仕事をして、真夜中まで居酒屋でお酒を飲む。そんな都会暮らしを満喫していた村上天悠さんが、移住へ舵を切ったのは30歳のときです。コンサルティング会社の社員として全国を飛び回る生活を5年間続けていましたが、年齢とともに「車のギアを1段下げるように、暮らしをもう少しゆったりダウンシフトしたい」との思いが募っていったといいます。

▲奥多摩に住んでハマったひとつが苔。苔グッズやワークショップも企画した
「移住するなら奥多摩一択という思いは最初からありました。地方自治体のコンサルとして各地の移住施策に触れる機会が多かったんですが、奥多摩町は移住者向けの住宅を建てて募集するという取り組みを行っていて、そういう自治体は当時ほとんどありませんでした。しかも古民家ではなく新築のメゾネット、オール電化の一軒家みたいな住宅がたくさん用意されていて。田舎暮らしにありがちな虫に困ることの少ない暮らしを送れそうなのが、なんといっても魅力でした」
移住でよくある「地域になじめなかったらどうしよう」という不安も、JR中央線1本で都心へ出られるアクセスの良さで解決。これまで作りあげてきた都心のコミュニティを維持しつつ、豊かな自然と快適な住環境を両立でき、なおかつ車なしで生活OKという、これ以上ない好条件がそろっていたのです。そこで奥様と二人で週末ごとに奥多摩に通うようになり「こんなに楽しい場所なら、すぐに移住してしまおう!」と夫婦で意気投合。移住を考え始めて4か月後には、住宅を確保するというスピード移住を実現しました。
奥多摩という地域にもっと関わりたい
2023年春、村上さんは会社を退職し、念願の奥多摩生活をスタートさせました。前職のツテでコンサルの仕事を請け負いながら、ふらりと川原へ行って焚火をしたり、眠くなったら昼寝をしたりと、のんびりした毎日。生活のすぐそばに自然があふれ、空間もゆったり使える奥多摩は「乾いていた何かが満たされるような時間だった」と村上さんはいいます。

近所の川原で焚火をしながらリラックス
そんな生活を半年ほど続けるうちに、ムクムクと湧いてきたのが“地元としての奥多摩”への興味でした。都心時代から地域のまちづくりに関わっていたこともあり、「地域に関われる仕事がしたい」とさっそくリサーチ。地域住民が子供たちとさまざまな活動をする「放課後こども教室」がスタッフを募集していることを知り、応募することに。毎週のように小学生たちと遊ぶようになると、彼らの暮らしが気になるようになったそう。
「子供たちの毎日は、学校と自宅を往復するだけ。親が送迎をすることが多いですし、週末も町外のショッピング施設に出かけていると聞いて、地元で生活をしていないなと感じたんですよね。それは大人もそう。奥多摩には年間約200万人の観光客が訪れ、通ってくる関係人口も多いのに、町外の人が地域の人と接する機会がほとんどなかったんです。僕自身、移住前に地元の人から話を聞きたいと思ったんですが、接点が見つからず苦心した経験もあったので、もっと関わりしろがあればいいのにな…と考えるようになりました」
そんなあるとき村上さんは、近所で開かれていたフリーマーケットに駄菓子屋さんが出店していたのを見かけます。店の前には、大勢の子供たち。何時間も買い物をしているのを見て「自分のおこづかいで買い物に行ける場所がないのか、だから駄菓子屋があんなに楽しいんだなと気づいた」といいます。
子供にとって家でも学校でもない、第3の居場所。地域の人と外の人が、気軽に交流できる場所。村上さんの中に浮かんでいたいくつかのイメージが、奥多摩駅近くの空き家に偶然出会ったことで「すべてのパズルがはまった」。2025年10月、子供も大人も自由に過ごせるコミュニティスペース「ニュー駄菓子屋サンマ」のはじまりでした。

ニュー駄菓子屋サンマ店内には駄菓子がずらり。おこづかいを握りしめた小学生たちでにぎわうスポット
子供たちが活躍すれば、未来はもっと面白くなる
村上さんが店主を務めるニュー駄菓子屋サンマでは、駄菓子のほかにゲームや漫画なども置かれ、18歳未満であれば誰でも自由に過ごすことができます。一方、18歳以上はコーヒーやお酒などをオーダーすれば、自由に利用OK。大人に楽しんでもらいながら、その売上で子供たちの居場所を守るという形で運営しています。奥多摩では新しいスタイルですが、村上さんの柔和な人柄もあって、お店はいつも子供たちで賑わっている様子。
「最近は中高生会議という、学生が奥多摩を盛り上げようという活動がスタートしました。子供たちは最初こそ自分のことばかり考えていますが、自分の町ってこうなんだ、自分がすることで町の人がこんなに喜んでくれるんだと、まちづくりに関わることで視座がどんどん社会に開かれていく。その瞬間に立ち合えるのは幸せだし、世の中が良くなっていくと信じられて面白いですね。遠くの面白い場所へ行くのもいいけれど、近所が面白かったら最高じゃないですか。奥多摩の人たちと楽しい近所が作れたらいいなって思います」

中高生会議メンバーの発案で、2月に奥多摩の中学生を対象としたサバゲ―大会を開催!盛り上がった
現在は週4日、店主としてサンマを運営しながら、都心部と奥多摩で教育コーディネーターやメンターとしても活動する村上さん。移住から3年が経過しましたが、奥多摩は「どこまでも快適な場所」だといいます。
「移住して大変だったことは?とよく聞かれるんですが、強いて言えば…と考えても何も浮かばない(笑)。地元の方がいい感じに放っておいてくれるので居心地いいですし、サークルもいろいろあるので楽しいですよ。唯一、予定外だったのは車を手に入れたことでしょうか。町内にはコンビニやJAなどがあって、買い物は十分事足ります。ただ、車で25分くらいのところに大型スーパーがあって、ドライブがいい気分転換になることに気づきました。車を手に入れたことで、奥多摩の暮らしをもっと楽しめるようになりましたね」
今後は子供発信の企画を積極的に行いながら、地域の方や学校関係者と連携して、子供たちにとって楽しい過ごし方の選択肢をつくれたら、と村上さん。奥多摩という新天地で、大好きなまちづくりに没頭する日々が続きそうです。

子供たちはゲームをしたりマンガを読んだりとフリースタイル。家族以外の人と過ごす時間は大切な経験のひとつ

「ニュー駄菓子屋サンマ」店長 村上 天悠さん / むらかみ てんゆう
1992年生まれ、神奈川県出身。大学の健康スポーツ学科を卒業後、認定NPO法人に勤めながら大学院で社会学を学ぶ。その後、コンサル会社に5年間勤務し、地方自治体の地域創生事業やまちづくりに関わる。2023年、30歳を迎えて退職し、ゆったりした暮らしを求めて奥多摩町へ移住。
翌年、一般社団法人たのしいまちのつくりかたを設立し、“みんなで営むパブリック”をコンセプトにコミュニティスペース「ニュー駄菓子屋サンマ」を開業。店主としてスペース運営やイベント企画を手がけながら、都心と奥多摩の両方で教育コーディネーターやメンターとして多くの子供たちと関わる活動を続けている。
■関連リンク
「ニュー駄菓子屋 サンマ」webサイト