りんごを通してつながれる関係を創る
朝日町地域おこし協力隊 長沼 智さん
- 移住エリア
- 東京都→山形県朝日町
- 移住年
- 2025年
「やりたいことがやれて、今はめちゃくちゃ楽しい」。長沼智さんは、2025年2月、地域おこし協力隊員として山形県朝日町に着任した。今はりんごの木の枝の剪定など、基礎を学ぶ毎日だが、都会での憂鬱な日々から解放されて満面の笑みだ。
目次
故郷に近い街で就農へ
生まれは山形県新庄市。東京の大学で街づくりを学んで、電機メーカーに就職したが、心を病んで、療養のため1年で実家に帰った。地元で地域商社に勤めていたが、2019年に上京し、システムエンジニアをしていた。
30代になって、それからの人生を考えた時、「地元で農業をしたい」という気が強くなった。叔母が病気になるなどで、実家の近くにいたいという気持ちもあった。それとふるさとへの思いだった。
東京で開かれた移住フェアで朝日町の職員と顔見知りになり、朝日町が地域おこし協力隊を募集していることを知って、迷わず応募。面接では地域や農業への思いを伝えた。
奥深い剪定の世界に頭が混乱
2025年2月に着任して、最初に挑戦したのがりんごの木の剪定だった。「果樹栽培の8割が決まる」といわれる剪定作業。目的は「樹の成長調整」と「作業性」だ。樹木を大きくする成長に偏ると果実が収穫しづらくなる。逆に果実をつける成長に偏ると、収穫は多くなるが樹が疲れてしまい、最悪の場合は枯れてしまう。そのバランスが難しい。「作業性」については、栽培管理や収穫の際に、枝が邪魔になったり農薬がかかりづらそうな場所はないかを考慮するということだ。
ノコギリと剪定はさみを使うのだが、いろいろな種類があり、使い勝手も異なる。
長沼さんは、まず大雪の中で行われた朝日町の検討会に参加したが、講師の残す枝・きる枝の判断の速さについていけず、頭が混乱したという。その後、秋田県横手市や青森県弘前市の講習会にも参加して見聞を広めた。「とにかく経験を積むしかない。ここまで奥深いとは思わなかった」と驚いた様子だ。
りんごにこだわるのは、難しいが故に、自分なりの工夫ができるからだ。朝日町ではふじを中心につがるやシナノスイートが作られている。
日本のりんごは近年、海外で評価が向上している。中国や中東で人気が高く、台湾やシンガポールへの輸出が好調だ。

摘果作業
「コミュニティデザイン」の発想で
長沼さんは大学時代に「コミュニティデザイン」という言葉に出合った。コミュニティデザイナーの山崎亮氏が広めた言葉で、街づくりの前提として住民の合意形成が重要だということ。最近はこれが建築界のトレンドになっている。
長沼さんは、農業にも同じ発想が必要だと感じている。生産者の助け合い、消費者との交流などを充実させたい。システムエンジニアは機械相手の無機質な仕事だが、農業は収穫で命と向き合い、収穫物を通して「つながり」を体感できる。
精神的な悩みを抱える人の社会復帰には、農業が成功しやすいという。生命に触れ合うことで、それを世話する人間に活力が生まれるようだ。長沼さんは農業と福祉をつなげる「農福連携」を進めたいと語る。

剪定作業を地域の生産者さんから教わる
自然と向き合い、仲間と交流
現場の作業の一方で、「めざせ!りんごマスター通信」という月刊誌の発行も始めた。自分の思いを仲間に伝えたいのと、連携のきっかけ作りが狙いだ。
移住から約半年、「やりたいことがやれて、めちゃくちゃ楽しい」と笑顔いっぱいだ。
一つは自然と向き合っていること。天候、土壌、樹木の育ち方。そこに発見があり、学びがある。りんごの花は「中心花」と、それを囲む「側花」に分かれる。「側花・側果」を適宜摘み取って、中心花に実る果実を育てるのだ。初夏からその作業が続く。その花を見ながら「まるで芸術・工芸品のようだ」と思うようになった。
もう一つの楽しみは仲間がいること。2025年4月から、新庄市の東北農林専門職大学で新規就農者向けの研修を受講し始めた。山形県内で就農を目指す44人が同期生だ。また、朝日町若手農業者の会にも入った。年齢の近い先輩農家から技術指導を受けることもできるので、身近な頼れる存在だという。
農業以外に、地域の神社の祭礼に参加したり、水路清掃や公民館の清掃も手伝って顔見知りが増えた。
新天地を得た長沼さん。日焼けした顔をほころばせて、「これこそが長沼のりんご」といわれるものを作り出そうと爆走を始めたところだ。

5月に開催された朝日町鎮守の例大祭
(※このインタビューはふるさと回帰支援センター発行の情報誌「100万人のふるさと」2025初秋号の内容をWEB用に一部再構成したものです)

朝日町地域おこし協力隊 長沼 智さん / ながぬま さとし
山形県新庄市出身。 ITソリューション企業のSEとして勤務後、地元である山形県へ2024年にUターン移住。朝日町の地域おこし協力隊としてりんご栽培を学ぶ。大学で学んだ「コミュニティデザイン」の視点を活かし、農業と地域、人とのつながりを大切にしながら、新たな農業の形を模索中。
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