孫ターン~祖母との約束、ワーケーション、そして移住へ~

自営業(ホームページ製作、カフェ・コワーキングスペース経営) 小舟 美穂さん
- 移住エリア
- 神奈川県→兵庫県新温泉町
- 移住年
- 2021年
写真はカフェ&コワーキングスペースのオープンイベントで地域の方々と(写真左上のハッピ姿が小舟さん)
「ないなら作ろう!」——そんな想いを胸に、新温泉町へ移住した小舟美穂さん。幼少期から親しんだ町で、自らの手で働く環境を作り、地域の高校生や事業者とともに新たな挑戦を続けています。移住の決断に至るまでの葛藤、二拠点生活を経て見えてきたリアルな地域の姿、そして「生き方をデザインする移住」の可能性とは?動くことでつながりが生まれ、未来が広がる——その歩みを追います。
目次
幼少期の思い出——祖母との約束が導いた、新たな人生のステージ
「幼い頃から、長期休みになると母の実家がある新温泉町に遊びに来ていました。山や海に囲まれたこの町は、わたしにとって思い出が詰まった特別な場所でした」
そう話すのは、リモートワークの傍ら、新温泉町で飲食店2店舗の経営と地域活動を行う小舟美穂さん(37)。兵庫県三木市で生まれ育ち、就職を機に神奈川県へ移り、約13年間を過ごしたのち、新温泉町へ移住しました。

幼いころの小舟さん。夏は海、冬はスキー。季節ごとの楽しい遊びは新温泉町でおこなった
「祖母が生前、『いつかここにきてくれたら嬉しいな』とよく言っていました。その言葉が、ずっと心に残っていました。ただ、実際に移住への行動が出来たのは、コロナ禍がきっかけでした」
リモートワークが普及し、働く場所の自由度が増す中、小舟さんは新温泉町が開催する『課題解決型ワーケーションプロジェクト』を知り、参加しました。ワーケーションプロジェクトでは、神奈川と新温泉町を二拠点生活する形で、1週間ずつの滞在を3カ月間経験。
「自分の仕事をしながら、地域の課題解決に関わることができる、という点に興味を持ちました。不安も多かったですが、地域の方々に親切にしていただき、新温泉町で”暮らす”イメージが固まっていきました。さらに、地域の事業者の皆さんから仕事のご相談をいただけたのも大きかったです」
単に生活拠点を移すというだけでなく、地域と関わりながら過ごしていけることに魅力を感じ、移住を本格的に考え始めました。
二拠点生活から移住へ——「ないなら作ろう!」の決断
3カ月ほど新温泉町と神奈川県を行き来する生活を続ける中で、新温泉町での滞在が「特別な体験」から「日常」へと変わっていきました。しかし、生活する上で必要な仕事の環境を確保することが課題でした。当時、新温泉町にもカフェやコワーキングスペースはあったものの、平日が定休日だったり、場所が山奥だったり、気軽にリモートワークをするには少し不便な点がありました。そこで、小舟さんは「ないなら作ろう!」と決意し、二拠点生活を続ける中で古民家を購入。カフェ&コワーキングスペースを開業することを決めました。
「不安はありました。でも、商工会や地元の信用金庫さん、工務店さん、そして地域の方々が応援してくださり、とても心強かったです」
と、当時を振り返ります。

別名「精神と時の部屋」Work Café Kofuneyaのコワーキングスペース
地域と共に生きる——高校生とのプロジェクトと新たなつながり
「移住後は、リモートワークを続けながら、地域の企業や町のプロジェクトにも関わるようになりました。その中でも特に大きなきっかけとなったのが、2024年度の浜坂高校コミュニティスクールへの参画でした」
『商店街を元気にしたい!』『空き家を減らしたい!』『多世代が交流できる場所を作りたい!』という高校生たちが地域課題に向き合う姿勢を見て、地域と学校がつながれる場所を作ろうと考えました。小舟さんは駅前の空き店舗を借りて改修し、高校生たちとともにバス待ちカフェをオープン。観光客にも喜んでもらえる場にすることで、地域経済の活性化と高校生の学びの場を両立させることを目指しました。
「高校生たちが実際に運営に関わることは、地域経済や経営について考える機会になります。また、地域と教育が結びつくことで『まだ地域にやれることがある!』という前向きな空気を広げたいと思いました」

浜坂高校生と立ち上げた浜坂駅前バス待ちカフェTOMOSHIBI(写真左端が小舟さん)
また、小舟さんは商工会青年部にも参加し、同年代の事業者との交流を深めています。「地域の仕事を知ることは、観光やPRの側面からだけでなく、『地域で生きること』そのものにつながっていると実感しています」と話します。
一方、プライベートでは畑に挑戦したり、地域の方から野菜や海産物を分けてもらったりと、自然の恵みを感じながら生活しています。
「都会での暮らしとの大きな違いは、困ったときに助けてくれる方が近くにいるということ。地域の方からも『若い人がいてくれるだけで心強い』と言っていただき、支え合いながら生きる地域の暮らしを、日々実感しています」
つながりが広げる未来。挑戦を応援し合える環境を
「移住して一番大きく変わったのは、『自分で未来を作る』という感覚です。新しいつながりが生まれることで、どんどん可能性が広がることを実感しています」
小舟さんは、高校生や移住者だけでなく、年齢や立場に関係なく「挑戦したい!」と動き出せる環境を地域に作り、それを応援し合える仕組みを作ることが大切だと考えています。
「表立って発信はしていなくても、『地域のために何かしたい!』と行動している方がたくさんいます。そういう方のことを知っていただくために、事業者さんのインタビューを掲示したり、地域の方の“やりたいこと”を可視化し、共有する取り組みを始めました。こうして少しずつ輪が広がっていくことで、地域内の人的資源や知識を可視化し、共有財産にしていけたらと思っています」
また、個別に解決を考えていたことでも、人とつながることで一緒に解決できる課題があると感じる場面も増えてきたと話します。
「地域を変えるのは、結局“人”です。わたしがたくさんの方に応援していただいたように、今度はわたしが誰かの一歩を後押しできる存在になれたらと思っています。いきなり大きな変革はできなくとも、『やれることから形にしていく』をモットーに、これからも活動を続けていきたいです」

駅前にパン屋さんを!米粉パンで起業したいママを支援。商品化に成功し、お店の目玉の一つに(写真右が小舟さん)
“やりたいなら、まずは動いてみよう”——移住を考えている人へ
「移住を考えるとき、不安や迷いは当然あると感じます。『地域に馴染めるか』『仕事はどうするか』『生活環境は合うのか』——わたし自身も、たくさんの不安がありましたが、一歩踏み出してみると、案外なんとかなるものです」
移住に対するハードルを少しでも下げるために、まずは短期滞在やワーケーション、地域が企画するインターンプロジェクトなどを活用し、自分に合うかどうかを確かめることが大切だと小舟さんは話します。
「無理に完璧な移住を目指さず、少しずつ試しながら進めていくのがおすすめです。実際にその場所で過ごしてみると、思っていたよりも居心地がよかったり、逆に想像と違うことに気付いたりすることもあります。その積み重ねが、移住をより自分に合ったものにしてくれると思います」
小舟さんは移住を「単に住む場所を変えるのではなく、生き方をデザインすること」だと考えています。
「移住を迷っているなら、まずは動いてみることが大切。やりたいことがあるなら、どこにいても挑戦できる環境を作れるはずです」
この言葉には、自ら道を切り開きながら歩んできた経験が込められています。
「新温泉町での暮らしを通じて、わたしは自分の理想の生き方を形にすることができました。移住を通して、自分のやりたいことや生き方を見つけられる可能性が広がると思います。これからも新たな挑戦を続けながら、新温泉町の魅力を発信し、多くの人と一緒に面白い未来を作っていきたい」と語る小舟さん。その挑戦は続いていきます。

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自営業(ホームページ製作、カフェ・コワーキングスペース経営) 小舟 美穂さん / こふね みほ
1987年兵庫県三木市生まれ。就職と同時に上京し、神奈川県で13年過ごしたのち、2020年12月から兵庫県新温泉町のワーケーションプロジェクトへ参加。神奈川県と兵庫県新温泉町の二拠点生活をスタート。その後、2021年9月に、お母様のご実家があった兵庫県新温泉町へ移住。2022年3月に新温泉町居組で、カフェ&コワーキングスペース《Work Cafe Kofuneya》を夫婦でオープン。その後、2店舗目として《バス待ちカフェTOMOSHIBI》をオープンし、地域の高校生とともにメニュー開発などを行っている。(浜坂ちくわサンドが人気)
■Work Cafe Kofuneya
https://kofuneya.com/WorkCafeKofuneya/story/
■浜坂駅前バス待ちカフェTOMOSHIBI
https://kofuneya.com/TOMOSHIBI/