移住ストーリー

お互いの得意を活かし、無理せず自分達のペースで手に入れたローカルライフ

神奈川県川崎市→佐賀県伊万里市
2019年8月
原田 一郎・佳美さん
カフェ「伊万里川友商店」オーナー

2019年8月、神奈川県川崎市からお二人の出身地・佐賀県伊万里市にUターンされた原田さんご夫妻。翌年4月にはカフェ「伊万里川友商店」をオープンしました。移住から店舗開店までには、お二人ならではのストーリーがありました。

2人の出身地、佐賀県伊万里市

一郎さんと佳美さんは同じ佐賀県伊万里市出身で、移住前は神奈川県で暮らしていました。一郎さんは、長年自衛官として全国を転勤してきたそうです。家族で引っ越したり、一郎さんが単身赴任をしたりと変化の多い生活でしたが、そうした状況を楽しみながら2人の子供を育てました。転勤先でもたくさんの人との出会いがあり、定年後も「きっと川崎市に住み続けるのだろう」と思っていたとか。独立した子供たちは首都圏に住んでいてすぐに行き来できるし、神奈川県での暮らしにとても満足していました。

6年前、一郎さんのお母さんが入院され、佳美さんは月に1度のペースで伊万里市に帰ることになります。子供の頃行っていた百貨店はなくなり、かつてのにぎわいは昔のことのよう。でも、しばらくすると、伊万里市の新しい「町づくり」の動きを感じるようになりました。
その拠点となっていたのが「伊萬里まちなか一番館」です。市民と行政が一緒に、町中ににぎわいを取り戻すことを目的に作られた施設で、1階は飲食店や商業施設、2階はしごと創りセンター「PORTO 3316 IMARI」、3階はこども広場「あいあい」があります。

「『伊萬里まちなか一番館」でいろんな人と知り合いになったんです。町を元気にしたいと思っている人と話しているうちに、やっぱり伊万里っていいなと思いました」

一方、一郎さんは、北海道勤務時に知り合い仲良くなった落語家・三遊亭竜楽さんと東京で再会します。お互いの近況を話すうちに、一郎さんは故郷の人に竜楽さんの落語を聞かせてあげたいと思うようになりました。伊万里市での独演会を持ちかけたところ竜楽さんは快諾し、話はとんとん拍子に進みました。
会場は伊萬里まちなか一番館、佳美さんが築いた信頼関係で多くの人に助けてもらい、イベントは大盛況。評判となり回を重ねる人気の催し物となりました。

少しずつ伊万里への想いがお互いの心に広がっていきました。5年前に一郎さんがUターンを考え始め、佳美さんも同意し、子供に「後はよろしく」と伝え移住準備を始めました。

「活気を取り戻したい」祖父母の空き店舗をカフェへ

伊万里市には佳美さんの祖父母が所有する空き店舗があります。昔は角打ちもできる酒屋「川友商店」としてにぎわっていて、地域のコミュニティになっていました。しかし、祖父母も高齢になり18年前に閉店、手つかずのままでした。

「祖父母が店を開けていたころは、たばこや塩、日用雑貨も取り扱っていたんです。帰るたびに店舗の近くに行き、小さい頃を思い出していました。通りもずいぶんさびれてしまい悲しかったですね」

ある日佳美さんは三遊亭竜楽独演会のチラシを持ち、祖父母の空き店舗近くにポツンとオープンした和菓子店「小嶋や」を訪れました。独演会の宣伝依頼をしながら、「みんなでこの通りに活気を取り戻したい」という話になり、「小嶋や」の小島安博さんに「次は佳美さんの番。お店をオープンして一緒に盛り上げましょう」と言われました。

元々料理や裁縫、ハンドメイドが大好きで得意だった佳美さんは、祖父母のお店をよみがえらせてカフェを始めたいと思うようになりました。子供に手作りパンやお菓子を作っていたみたいに、カフェでは一郎さんが作った農作物を使い体に良いものを提供したい、と考えたそうです。一郎さんも大賛成で、移住後の夢を二人で描き始めました。

親族みんなで思い出の場所をリノベーション

原田さんご夫妻は、祖父母のお店で「伊万里川友商店」を開店する準備を始めました。昔のように、人の集まる活気あふれる場所にするために。祖父母のお店は長いあいだ閉じられていたものの、掃除を始めると思い出の品であふれていました。

「使えるものは再利用したいので、捨てる作業が一番大変でした。祖父母のものだから、勝手に処分してよいのか悩みました。93歳になる祖母に尋ねてみたものの、『好きなようにしてほしい』と。結局、捨てられないと判断したものは、今でも保管しています。捨てるかどうか迷ったら、決断力のある夫に相談しました。また、ごみの処分は重くて大変だったので体力のある夫は心強い存在でした」

解体中の外装。のちにポストも少し右側へ移動することに(左)/様々な種類の木材を使って自然な風合いとなった内装(右)

佳美さんの義弟が建設業を営んでおり、リノベーションは全てお任せしたそうです。自分たちの店づくりなので、「少しは手伝いたい」と教わりながら壁や床を塗り、店の外側にカウンターも設けました。

地方の飲食店に必要な駐車場は、佳美さんのお父さんが近くの畑の一部を提供してくれました。作業は親戚の人に教えてもらいながら、主に一郎さんが担当。畑の土は柔らかく駐車場に向かないため、搬出して山の畑に移動し、砂利を敷き詰め押し固める重労働が続きました。

地方生活では絶対に必要な駐車場

心強い仲間とこれから目指すもの

カフェ「伊万里川友商店」のオープンまでの過程は、インスタグラムで見ることができます。

2020年4月1日にオープンを予定していたものの、新型コロナウイルス感染症対策のために少し時間をいただき、テイクアウトを中心に4月15日に開業。5月16日からはパーティションを設置し、店内で食べられるようになりました。

テーブルはシンプルに、椅子はカラフルに。新型コロナウイルス感染防止のため、パーテーションも設置した(右)

ご飯が付かないカレーのみのテイクアウトは350円。写真は2人分(左)/子育て中もたびたび作ったピーナッツパン。何もつけなくても美味しい(右)

「休耕地も借り、夫が落花生を植えました。秋の収穫が楽しみです。カフェのメニューには落花生を使ったものがあります。自分たちで作った落花生を原料として使うことを目標にしています。また、ピーナッツ豆腐を作る過程で出る搾りかすはクッキーに入れて、余すことなく使っています」

工作機械を操る一郎さん。「たくさんピーナッツが収穫できますように」

リノベーションは、親戚の方が力を貸してくれましたが、情報発信も周りの人に支えられています。写真は佳美さんが撮影し、イラストは大阪府に住むめいごさんが描き、横浜市に住む娘さんが文章を添えて投稿。
離れていても、 伊万里に想いをはせながら「伊万里川友商店」をみんなで育んでいます。

「インスタグラムは、『毎日投稿する』などと決めないようにしています。せっかく自然いっぱいの地元に帰ってきたのに、忙しく生きてはもったいない。できそうにないことは決めないことにしています。
移住も、ゆっくり時間をかけて今の形になりました。移住したい場所やそこでやりたいこと、一緒にいたい人など、一つでも譲れないものがあるのなら、必ずいつかは落ち着くべき所に落ち着くような気がします。都会に住んでいる伊万里出身の方が故郷の良さを感じるだけでなく、もう一度伊万里に帰ってみようと思うような、そんな場所・受け皿ができるように少しでも貢献できたらいいなぁと思っています」

落ち着いたら、東京にも遊びに行きたいと佳美さんは考えています。子供の家を訪ねたり、東京で生活する佐賀県出身者とふるさとの話に花を咲かせたり。これからもご夫妻のペースで、「豊かな人生を送りたい」と話してくれました。