移住ストーリー

東京・フランス・福岡での暮らしを経て変化した、故郷に対する気持ち

東京・フランス・福岡→熊本県熊本市
2015年移住
冨永 博美さん
レストラン「Peg」経営

「子どもの頃からずっと、故郷である熊本が好きではなかった」。そう語るのは、熊本市でレストランを営む冨永博美さん。東京、フランス、福岡での生活を経て、その意識は大きく変わったと言います。熊本にUターンしお店を開くまでの経緯と、熊本の食材や生産者への想いをお聞きしました。

都会に憧れ飛び出した、若い頃の自分

「幼稚園の文集には、すでに『コックさんになりたい』と書いていましたね」と話す冨永さんは、現在、熊本市内でレストラン「Peg」を経営しています。幼少期はあまり外食をしない家庭で育ち、その頃からすでに、野菜くずでサラダらしきものを作っていたそう。お母さんの手作り料理も、いまの冨永さんの料理の土台になっています。

高校進学時には「料理人になりたい」と決め、食材となる農産物や流通について勉強できる農業高校に進学。しかし、この頃は地元である熊本が好きではなかったのだとか…。

地元の山の中で育った立派なタケノコ(左)/自然の中で遊ぶのが好きな娘さん(右)

「僕は熊本県北部にある和水町(なごみまち)という田舎町出身で、当時の僕たちにとって都会は熊本市。熊本市内の古着屋さんで、買物の際にもらえるいろんなショップ袋を誇らしげに持つのがステータスでした。町の雰囲気全体が田舎臭いような、やぼったい感じがして。そんな土地に住む田舎者である自分もダサいなと…。とにかく嫌だったので、都会への憧れは募るばかりでした」

そして、高校卒業とともに熊本を飛び出した冨永さん。調理師になるため福岡の専門学校で学び、卒業後は東京の百貨店に入っているフランス料理店に勤めることになりました。

大人になってわかった「熊本のかっこよさ」

「職場では、先輩の指導がとにかく厳しくて。標準語で怒られるとさらに冷たく感じましたね(笑)。周りの仲間が次々と辞めていく中、必死に食らいつきました」

憧れだった都会・東京での暮らしがスタートするも、厳しい修行が続く日々。ここでの修行で地獄を見たからこそ、今の自分があると語ります。

「今までと全く違う環境での生活は、すごく楽しかった。やっぱり東京にはすごい人がいっぱいいて、すごいお店もたくさんあって…。自分の天狗の鼻をへし折ってくれるような、素晴らしい出会いがたくさんありました。もっと上の世界に触れるという意味でも、東京に行って良かったなと思います」

その後、最初に勤めたお店が閉店になり、小さな個人経営のフランス料理店でさらに今のベースとなるような経験を積んだ冨永さん。その2年半後、「本場で学びたい」とフランスへ送り出してもらい、1年間修行。次はベルギーで…というタイミングで起こったのが、2011年3月の東日本大震災でした。「日本が大変だ!」と、急きょ帰国を決めたそうです。

「妻(北九州市出身)と話して、とりあえず九州には帰ることに。その時熊本に帰る選択肢はなかったですね。私も妻も同じ福岡の調理師専門学校の出身で、土地勘も少しはありましたし、九州なら福岡でしょ、と思い福岡に決めました」

慣れ親しんだ福岡で楽しく暮らしていた冨永さんですが、何か街に対してふに落ちない感じがあったのだとか…。そんな時、ふと遊びに来た熊本市で、「あれ、熊本ってなんかカッコいい」と感じるタイミングがありました。

「僕が東京にいたとき住んでいた下北沢に似ていて、街は個性的なファッションの人であふれていて、面白い個人経営のお店がたくさん。とにかく個々のパワーがすごいんです。程よいキャパシティーの街の中に、他にはない魅力がキラキラ詰まっているような…。昔は嫌がっていた『ちょっと田舎っぽい』点さえも、むしろカッコイイとすら感じました。福岡も面白いお店や美味しいお店がたくさんあるけど、やっぱり百貨店や駅ビルなど大きなハコの強さがあって。それに比べると、熊本には独自の発展があって、ここにしかない何かがある。そう気付いた時、『自分でお店を開くなら、熊本で』と決意しました」

生産者の想いも込めた一皿

「熊本の食材に特化したお店」をコンセプトにオープンした「Peg」。使う野菜は全て熊本の無農薬の野菜、そのほか自然な環境と餌で育った健康なお肉、九州近郊で獲れた天然のお魚をできる限りそろえています。熊本は海あり山ありで、良い食材が豊富に手に入るのが大きな魅力。しかも、東京では考えられないくらいお手頃なのだとか。

「メインで使う食材はなるべく生産者さんを訪問しているのですが、東京からシェフが会いに来るようなすごい生産者さんも熊本にはたくさんいるんですよ!それでいて、皆それをひけらかさない。きっと、まだ出会えていない農家さんやすごい食材もたくさんあると思います。熊本の素晴らしい生産者や食材を伝えていくのが、僕ら飲食店を経営する者の役目だと思うし、巡り巡って熊本が元気になっていくと思うんです」

ショップカードに書いてあるのは「『自然の料理』Peg」。あえて「フランス料理」などのジャンルにカテゴライズしていないのは、熊本の素晴らしい食材と、それらが当たり前のように豊かにある風土を、まるごとお皿に乗せて提供したい、そんな冨永さんの想いが込められているからなのだそうです。

熊本の旬の野菜をふんだんに使った「ガーデンサラダ」

昔は熊本が嫌いだったけど、今では逆にこんなにキラキラしているところはないと語る冨永さん。同じように熊本の魅力に気づいてやってきた移住者さんが、冨永さんの周りにもたくさんいらっしゃるのだとか。

「自然環境や食材、中でも『水』にこだわりのある人は、熊本を選んでくれてることが多いですね。ほかによく聞くのは『気』が良いとか、『人』が合うとか。肌に合う・合わないみたいなのもあると思うけど、そんなふとしたきっかけで良いと思うんです。熊本に遊びに来て、気に入って、『物件探しちゃってるよ~』と冗談ぽく言っていた友人が、知らないうちに移住してたこともあります(笑)。まずはぜひ、気軽に遊びに来てほしいです!」