移住ストーリー

淡路島の自然の恵みで「環(わ)」をつなぐ。農業で共にみらいを創りたい!

東京都→兵庫県洲本市
2017年移住
三崎雄太・咲さん
有畜複合農業「島ノ環ファーム」経営

瀬戸内海と大阪湾の間に浮かぶ兵庫県・淡路島。自然豊かなこの島で有畜複合農業を営む夫婦がいます。二人の移住ストーリーには、この集落に引き寄せられたかのようないくつもの偶然とご縁が連なっていました。
7,000㎡の畑が広がる島ノ環ファームにお邪魔して、「僕たちの移住はレアケースかも」と語るエピソードについて伺いました。

生き方を見つめ直すと、「就農」に近づいていった

「リタイア後に縁側で犬とのんびりできたら…と夢見ていたら、もう叶っちゃいました」

と笑う雄太さん。会社員時代は若くして移住・就農するとは考えていなかったそうです。
東京育ちの二人は大阪で社会人生活をスタートしました。関西の街に馴染み、仕事にも自信を持ちはじめた矢先、雄太さんが地元・東京に転勤に。ところが、しだいに心の疲れが溜まっていったといいます。

「帰京した街に愛着を持てなくて、心が休まりませんでした。会社は好きでしたが、サラリーマンの働き方も限界かなと思うようになっていったんです」

一方、咲さんは農家になる夢を抱いていました。しかし農業には家族の理解と協力が必要だからと、雄太さんの心が決まるのを待っていたとのこと。

「以前は断られたので遠い夢だと思っていたけど、東京の暮らしに落ち込む彼を見て『移住して次のステップに行かない?私は農業をやりたいよ』とあらためて伝えてみました」

そんな咲さんの言葉に雄太さんは心が動きました。「農業で生計を立てられるのか」という不安は残っていたものの、新天地を探すことにしたのです。

淡路島のこの家に引っ越してから迎えた愛犬きょうだい。人懐っこさがチャームポイント!

次々と縁がつながり、淡路島に導かれて

親しんだ関西の雰囲気を求めていた二人は、2016年に東京で開催された「ふるさと回帰フェア(※)」で洲本市の市職員と出会います。淡路島との縁のはじまりだったと咲さんは振り返ります。

「親戚のお兄ちゃんと話しているようで楽しかったので、すぐに体験移住を予約しました。移住相談窓口の『あわじFANクラブ』のスタッフさんのアテンドで、私が研修を希望していた農家さんも見学させてもらえたんです」

「その日は偶然にもオーガニックマーケット『島の食卓』の開催日でした。僕らと同世代の農家がイキイキと農作物を売っていて、高齢の方ばかりじゃないんだと驚きましたね。みなさんとの付き合いは続いています。今では僕たちも運営側に回っているんですよ」と雄太さん。

「収入基盤を持つために僕は就職するつもりでした。ところが、市職員さんから『島に来るなら地域おこし協力隊をしませんか?主な活動テーマは農業です』と絶好の提案をいただき、ありがたくお受けしました」

2日間の体験移住で農家仲間と出会い、咲さんは農家の研修生、雄太さんは地域おこし協力隊として収入の見通しも立って一安心。帰りに橋を渡る頃には「淡路島がいいよね!」と想いが一致していたといいます。
こうして、2017年1月に三崎家の淡路島移住が実現することになりました。

「そこからの妻の行動は想定外のスピードでした!研修先をかけもちしたり、農業を一人で営む女性に会いに行ったり。そして、移住から半年後には、研修先の先輩から『うちの隣で畑をしない?』と誘われ、宇谷地区の耕作放棄地を自ら開墾することになりました。僕は協力隊の活動もあったので、休みなしでしたね」

とおおらかに笑う雄太さん。イキイキと働く農家さんや咲さんの熱意に触れて、農業の魅力に引き込まれていったそうです。

(※)ふるさと回帰フェア…認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが毎年秋に開催している移住フェア。全国各地域の自治体や団体が一堂に会する。

五色町の鮎原宇谷地区は、島が誇る米どころ。人口減少が進む中、若い農家は待望の存在だったという

宇谷地区は、淡路島の中山間地に位置する洲本市五色町鮎原にあります。米と玉ねぎ作りを主要作物とした一大産地でありながら、農家の減少により耕作放棄地が増えているのが現状です。
そんな宇谷で畑を耕す日々が続いていたある日、また大きな偶然が起こります。

「目の前にある家から『三崎さ〜ん!今日でこの家空くよ〜』と声がしました。淡路市の移住相談窓口の『島くらし淡路』の方がたまたま僕たちを見かけて、呼んでくれたんですよ」

当時は賃貸アパートから宇谷に車で通っていたため「畑の近くに住めるかも!」とすぐに家を見学させてもらいました。なんと、のちにお会いした家主さんは、開墾した畑の所有者と同じ方だとわかったのです。

「家主さんは農家に家を買って欲しかったらしく、『三崎さんならきっと大事にしてくれる。売買というよりも、引き継いでもらいたいという想いです』と言ってくださいました。この偶然には本当に感謝しかありませんね」

ふるさと回帰フェアに訪れてから約一年。次々と縁がつながっていったことにただ驚くばかりでした。

「島にあるもの」で小さく循環させる農業とは

農家の屋号である「島ノ環ファーム」について雄太さんに伺いました。

「『環』とは循環する『わ』のこと。《地域で小さく循環する有畜複合農業》というコンセプトから名付けました。島にある資源を回しながら持続可能な農業を行うという意味です」

羽をのばせる所で鶏を育てる平飼い養鶏と、自然の資源を生かした野菜づくり。この2つを有機的に結びつけることを「有畜複合農業」というそうです。咲さんがスイスの農家民宿で働きながら学んだことがモデルとなっています。

「今でこそオーガニック野菜が注目されていますが、日本ではまだ卵や肉がどんな風に育っているかを意識する人は少ない。輸入飼料や遺伝子組み換え肥料といった、社会システムによって供給しているものは、なんらかの歪みが出るととたんに手に入らなくなってしまうんです」と咲さんの言葉にも熱がこもります。

まるで卵の黄身のような、まあるい黄色のブランドロゴが「島ノ環ファーム」の目印

「例えば、鶏舎の敷床には、島の課題である放棄竹林の竹のチップや、キノコの廃菌床、落ち葉など、出所の分かるものを使っています。それらが鶏糞と混ざって発酵すると堆肥になるので、最終的に畑に還元しています。鶏のエサも、近隣農家のくず米や菜種油の搾りかすなど、約8割は島内で入手できているんですよ」

島ノ環ファームの考え方を掘り下げるほど、食糧自給率100%といわれる淡路島のポテンシャルを生かせる農業であることが分かります。これも移住地の決め手となった理由だとか。「そこにあるものを活用して生き物や野菜を育てるのが本来の農業の姿なんです」との言葉から、農業への熱い想いを感じました。

「子供から『面白そうにやってるなぁ』と思われる農家を目指しています」(三崎さんのお子さん/写真は三崎さん提供)

移住者と地元の人が、ともにみらいを創る

農業を始めた当初は自分たちのことだけで精一杯でしたが、しだいに集落の未来にも目が向くようになったと雄太さんは言います。

「子供のために庭に鯉のぼりを立てたら『久しぶりやな』とみなさん喜んでくださいました。宇谷の住民は30世帯に満たず、おひとりさまの高齢者も多い。次の世代につないでいくためにも、自分たちでできることはないかと考えるようになりました」

当時の町内会長も同じ想いをお持ちだったことから、これから宇谷を支える世代が集まって「宇谷のみらいを創る会」が誕生しました。2020年のことです。

「『上の世代への説明は僕らがするから、一緒にやっていこう』と移住者の僕たちを迎え入れてくれました。協力隊で知り合った地域づくりのスペシャリストの大学の先生の協力も得られ、異例のスピードで設立できました。今は、集落の現状を伝える地域新聞の発行や、クリスマス会などの催し、集落で育てた酒米で地酒づくりなどに取り組んでいます」

宇谷の地形を俯瞰で見ることができるジオラマ(左)/宇谷の地酒「総邌利(そうねり)」のお田植え祭り(右:写真中央が雄太さん)

近年、周辺に住む若い世代が宇谷で農業をするようになり、「宇谷のみらいを創る会」を窓口として少しずつ農地を引き継ぐことができているそうです。課題は移住者がすぐに住むための空き家が不足していること。これからは集落入りを迎える体制づくりも整えていく予定です。

「宇谷は農地整備がされなかった珍しい地域。はるか昔の村民が山を切り拓いたままの形状で田畑や水脈が守られ、私たちはその恩恵を受けている。そういうストーリーって魅力だと思うんです。そんな宇谷の暮らしを発信し、もっと人を迎えたいんですよね」と語る咲さんも、未来への想いに溢れていました。

羽織るとテンションがUPするオリジナルの法被(はっぴ)(左が雄太さん/写真は三崎さん提供)

「土着感のある農業の面白さ」を伝えていきたい

「島ノ環ファームとして何度か収穫体験イベントを行ってきました。この夏には鶏や土に触れて卵や野菜を直接買えるオープンファームを開く予定です。鶏をさばいて命をいただくワークショップも計画中。つくる人と食べる人が直接つながって、食や自然を一緒に考える機会を地道に続けていきたいですね」と咲さんは語ります。

「ロバの馬車をひいてマルシェなどに連れて行くことが夢なんです。ちょっと大きい動物ってかわいいでしょ?」とアイデアは尽きません。

一部地域では開発が進む淡路島。しかし、雄太さんは「“人の手”による村づくりを大切にしたい」と語ります。

「地元の人は何かの名人だし、近隣の移住者さんもそれぞれスキルを持った人も増えています。みなさんともっと宇谷のフィールドを楽しくして『こんなに土着感のある農業もあるんやで』という面白さを見せたいですね。僕らが田舎を求めたように、ありのままの自然や人にふれあえる集落を維持していきたいです」

収穫体験で心も体ものびのび。マスクから笑顔がこぼれる(右下が雄太さんとお子さん/写真は三崎さん提供)

最後に、移住を考える人に声をかけるなら?と聞いてみました。

「『仕事がしんどいから田舎がいい』では、都市生活とのギャップを感じてしまうと思います。だけど、自分がやりたいことや大切にしたいことを明確に持っていたら、不便さえ楽しめるんですよ」

たくさんのご縁で淡路島・宇谷に呼ばれた二人。「こうしたい!」という想いを語ることで多くの人が手を差しのべてくれたと話していましたが、雄太さん・咲さんの行動力と誠実さがあってこそ、叶ったことのように感じました。

宇谷の大地からつながる島の「環(わ)」に、これからも目が離せません。

(写真・文 上田志保)