先輩移住者インタビュー【多良木町】 |地域のトピックス|FURUSATO

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先輩移住者インタビュー【多良木町】

先輩移住者インタビュー【多良木町】 | 地域のトピックス

『熊本県移住定住ポータルサイト』の新コーナー『くまもと暮らしインタビュー』から書き下ろしの原稿が届きましたので、こちらでもご紹介させていただきます。
2016年に熊本市から多良木町へ移住され、イタリアンレストラン『TSUKIGI×TABLE』を経営されている遠藤眞一郎さんです。

“心のやりとり”ができる最高の暮らし方を伝えていきたい
熊本地震をきっかけに多良木町へと移住された遠藤眞一郎さん。「他に選択肢がなかったんですよね」とは言うものの、新天地とのめぐり合いやライフスタイルは羨ましいほどに自然体。そこには、人を引き寄せる人間力とヒントが垣間見れました。

自分がいいと思って信じてきたからこそ得たもの
移動販売やイベント出店をしながら熊本市内でカフェを経営していた遠藤さん。店舗兼自宅は熊本地震によって被災し引っ越しを余儀なくされてしまいます。
「もしそういうことがあったとしても生活できるっていうか、元々山の中に住みたい気持ちがあったんですよね」。

同じ町で再建の道をとらなかったのは、子どもの頃から思い描いていた“山の中の暮らし”。
「人からお給料をもらうだけの生活でホントに一生暮らせるのかな?みたいな漠然とした不安があって、そういうのが全部、東日本大震災だったり熊本地震だったり、自分が予想していたことが現実になってきて、自分でなにか判断しないといけないなって」。

多くの人は、不安な時ほど安定を選びがち。いずれまたお店を再建するにしても、見知らぬ町・見知らぬ人、家・仕事…なにもかもが云わば白紙の状態。そこに迷いはなかったのでしょうか?
「確かに、そっか!なんか自分でどうにかできるみたいなことですかね。水もあるし食料もある。まぁ、どこでも暮らせるっていうか、山だけん」と、まるで少年のよう。

▲スカイスポーツの発信基地として平成13年にオープンした「妙見野自然の森展望公園」。人吉球磨盆地が一望でき、冬場には幻想的な雲海を眺めることも

目の前に広がる思い描いてきた理想の暮らし
高校時代に球磨地方で過ごした遠藤さん。その頃からお付き合いのあった多良木町の知人に空き家を探してもらい、一軒目にしてめぐり合った物件が、今の住まい。
当初は1週間くらい滞在して見てまわるつもりだったそうですが…
「家の横に川が流れていて、田んぼがあって、ずっと後ろに山がある。中とか見ずに来週から来ます!って」。

多良木の町からさらに深く、山に入った槻木の村。
子どもの頃に思い描いていた“山の中の暮らし”そのものが広がっていて、まさにひとめ惚れだった。
「山での生活って、ひとりサバイバルみたいなイメージがあったので薬草の勉強とかしたりしてたんです。でもこっちの方が都会にいた時よりもコミュニティがしっかりしているんですよね」。

当時はまだ結婚前。虫が苦手だった奥様には写真も見せずに話だけして、一度家に連れて来たそうで…あれ?来た??
「そう、僕が引っ越した後にね(笑)」。

▲レストランへと続く竹林の小径。看板ももちろん遠藤さんの手作り

家族のように受け入れてくれた村への感謝とこれから
移住した翌年に結婚。地元では30年ぶりのことで、村の方々が公民館に集まって若いふたりを祝福してくださったそうです。
後日、多良木町の新しいパンフレットを目にする機会があり開いてみると、そこには温かな祝宴の様子が一枚。小さなワンカットでしたが、その一枚に村の未来が重なって見えてとても印象的でした。

多良木町は熊本県の南、球磨盆地の東側に位置していて、町面積の約80%が山林原野という自然豊かな農山村。日本三大急流のひとつ球磨川が町の中央を流れていて、田園風景を眺める高台からは、美しい雲海が広がることでも知られています。
槻木はさらに山深い場所にあって、いわゆる過疎化が進む村。地域の方々にとってふたりは、子供や孫の世代にあたる。

「もう家族みたいな感じで色々してくれて」。

当初、生活が安定するまではのんびり移動販売を続ければいいと思っていたそうで、その気持ちを動かしたのは、大家さんの何気ない言葉。
「毎月、家賃を払いに呑みに行くんです(笑)。正直ね、ボロボロだったんですけど『改装して自分たちでレストランとか民泊とかしたらどぎゃんか?』って。自分は料理しかできんから、じゃあ、なんかそういうのできるかなって、なんとな~く」。

林業を営む大家さんがご自分の山から切り取ってきた木材を使って、改装のほとんどを手助けしてくださった。遠藤さんは「ペンキ塗りをしたり、レストランに必要な道具を買ったりしただけ」と楽しそう。

▲山里にひっそり佇む古民家レストラン。実りの季節には彩りあふれる景色を愛でながら美味しいお料理に舌鼓

レストランから広がった新しい仕事
2017年10月にオープンしたレストラン『TSUKIGI×TABLE』は、イタリアンをベースにしたジビエ料理のお店。『身土不二』の考えに共感し、元々この地域にあった狩猟の文化を継承。野菜類もすべて地元で採れる食材のみを使ったこだわりメニュー。
「グーグルマップにここが載ってるみたいで、それを見て日本のツアー会社から予約が入ったんですけど、てっきり日本人かと思っていたら外国の方で、僕も驚いたけど『なんでこんなとこで店をやってるんだ?』って、ビックリされてました」。

SNSなどで情報を発信しているわけではないそうで、それでも評判を聞きつけ予約が入る。カフェ時代の常連さんが足を運んでくれることも増え、ここでまた新しいことが動き出した。

「自分で起業して移動販売とかしていくうちに、色んな人と出会うじゃないですか。あんまり普通の人が来なくて(笑)まぁこんな感じだから、ちょっと変わった社長さんとかね。その人たちといつも一緒にいて、こんなことできたらいいなって、漠然と」。
助言してくれたり引っ張ってくれたりする人々がまわりにたくさんいて、自然と種まきができていたのかもと話してくださった。

移住してもうすぐ4年。今また新しい流れが生まれている。

「今度は自分がそういう人になって、もがいてる人たちの何かのきっかけになれたらいいなって。次の世代を作っていく人たちに伝えて行きたいなって思っています」。
それは恩返しでもなく、村のためでもない。
「ただ純粋に自分のため、家族のため」。
でもそれが、未来の村をつくっていく。
「店に色んな人が来てくれて色んな関わりが生まれる。求められることもあるし、自分が暮らす環境が良くなるならそっちの方がいいですから」。

レストラン経営以外にも、ボランティアで衣食住研究会を立ち上げ『子ども食堂』を開いたり、ゆくゆくは農村交流ができるフリースクールも計画中。子どもの少ない過疎の村で集団行動の大切さを学んでもらえるような取り組みを目指している。

「なかったら作ればいいって考え方なので、どこにいてもやりたいことはできるんですよね」。

▲地元で採れた野菜だけを使ったメニュー。狩猟の資格も持つ遠藤さんならではのジビエ料理は絶品

何もなく来ても、幸せな生活ができる
「強く思っていたら叶うというか、奥さんもそうなんですけど。だから今はマイペースに、自分が本当にやりたかったことができてる感じです」。
さらりと語るその横顔は、気負いなど微塵もなくとてもナチュラル。こんな風に自分の人生を確かに語れる人がどれだけいるだろう。移住をきっかけにして、活動の幅がどんどん広がっているのも、人と人との縁を大切に丁寧に向き合ってこられた遠藤さんだからこそ、夢を夢で終わらせないパワーを引き寄せているのかもしれない。

今年の目標は本を1冊書くこと。
「山の暮らしには宝物がいっぱいあったりするので、ビジネスと繋がりを持って、ちゃんと社会生活もやっていくけど、住む場所はここ。そんな本を書く予定です。僕は何もなくて来てしまいましたけどね(笑)」。

過疎化が進む村にとって、若い夫婦の移住は明るい話題。
おふたりには昨年5月に女の子が誕生した。休校中の小学校に子どもたちの笑い声が響き渡る日もそう遠くはない。

「不安はもう一切ないです。なぜならここには“心のやりとり”があるから」。

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TSUKIGI×TABLEオーナー/遠藤 眞一郎さん(えんどう しんいちろう)


プロフィール
熊本市でカフェを経営しながら、イベントなどでワッフル店を出店していたが、熊本地震によって被災。2016年に多良木町槻木に移住する。
2017年10月にイタリアンレストラン『TSUKIGI×TABLE』をオープン。地元産にこだわった旬のメニューとジビエ料理が楽しめる。

■TSUKIGI×TABLE
・所在地 熊本県球磨郡多良木町槻木314
・TEL 080-1788-8932
・完全予約制

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取材・文/t.taka

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